Cafe Ms' 季節の便り

マスターが語る「ある日の出来事」

長い文章です。
「コーヒーを家で美味しく淹れて飲みたい」と常日頃思っていらっしゃる方でないと退屈かもしれません。
マスターが、ある日の出来事から考えてみたことを綴りました。
ご興味があれば読んでくださいませ。
尚、小さい字ですので、同じ文を別のページに大きい文字で載せております。
http://cafems.huuryuu.com/newpage5aruhinodekigoto.html


ある日の出来事

バレンタインデーを少し過ぎたある日、来店した若い男性客が店頭のショーケースから珈琲豆を買おうとして質問しました。「この豆の中で焙煎が一番新しい物はどれですか」といった内容だったようです。と言うのもその時私は店内に居らず、家内がその質問を受けたのです。その後のやり取りも私は詳しく聞いていませんが、家内は私が考えた答えと同じ内容で最初の回答をしたようです。それは現在実施中の新春珈琲豆セールに出している、ストレート豆2種類のセットです。当店では販売する珈琲豆の種類がとても多く、何十種類もの豆についてそれぞれの焙煎履歴を説明できるのは、実際に焙煎作業をしている私だけですが、それでもキャンペーン中の豆なら新鮮だという事は確かです。その点で家内の回答は模範的だったと私も思います。

しかしそのお兄さんは何故かその答えに満足しなかったようで、その後のやり取りで扱いに困った家内が私を呼び出したのです。
私が店に入って彼を見た時、すでに平静な状態ではなかった様子でした。それでも私は開口一番、家内と同様に新春珈琲豆セールのセットを勧めました。わざわざ焙煎の新しさを尋ねたのだから、それが分かれば買うだろうと思ったからです。しかし彼はそれを聞いても、さほど値段の高くないその豆セットを買う様子が無く、結局のところ豆を何月何日に焙煎したのか聞きたがっていたようです。私は彼の質問の意図が全く分からず、またどんな豆を買いたいと思っているのか想像できなかったので、焙煎した日付を知らせる気は無いと告げました。すると彼は「どうしてですか、私が聞いた他の店ではちゃんと教えてくれましたよ。」と反論しました。

 私のこれまでの記憶では、彼が最後に珈琲豆を買ったのは過去1か月以上前の事で、それまで何度か来店した記憶はあるが、約2週間毎にある豆の特売日に現れていた訳でもありません。私には彼の珈琲の好みや当店の売り方への理解度を、推し量る材料がありませんでした。と言うよりも、彼は何度来ても必要最低限の注文以外の事はしゃべらない人で、まだ幼い子供を連れて来店した時も子供を好き勝手に遊ばせ、自分ではたしなめる気も無い様子でした。当店では私が認めた常連さんには、当日朝焙煎したての豆を勧めたり、前もって来店されるのが分かれば、いつも購入するブレンド豆を新しい日付の焙煎豆で作ったりします。店内で珈琲を注文して飲まれる場合も、相手次第で日付のローテーションを飛ばして、新しい豆でドリップする場合があります。

私から見たそのお兄さんはたとえ回数多く来店しても、そのスタイルでは当店に馴染まないと感じていました。そんな人が突然来店して豆を焙煎した日付を教えて欲しいと言っても、焙煎が生命線の自家焙煎店には最大の重要事項であり、意図が分からない質問に答えられないのは当然です。それこそ所謂企業秘密でしょう。これが最も新しい日付の豆ですと伝えてもそれは買わず、全ての焙煎日付の中から目的の物を買いたいと言いそうな態度を見て、私はこんな客は要らないと思いました。私は彼に当店のお客さんはそんな事を聞きませんし、私が新しいと言えばそれを買うのが普通ですよと言いました。彼がこの店はお客に対して失礼だと怒ったので、お金を払うのだから何でも聞いて良いと思う人の方が失礼だと私は言い返した。それで彼は「もういいです、もう来ませんから。」と捨て台詞を残して帰りました。

 ところが奇妙な事にこの日はこれで終わらず、その後もう一人別な若い男性客が来店し、似たような趣旨の質問をしました。二人目のお兄さんは、すでに怒って帰った人より少しだけ年上の感じでしたが、発した質問があまりに似ていたので、私は最初の人の兄弟かあるいは身内の人かと思ったほどでした。ですから私の答えも最初の人の場合と同じでしたが、やはり彼も私の勧めた新春セールの珈琲豆を買いませんでした。彼は何かためらいながらも色々考えた様子でしたが、怒って帰るような事はありませんでした。結局焙煎日付が最も新しい豆という条件から外れた物を買い、更に円錐ドリッパーを持っていないからと、当店でろ紙とのセットも買い求めて帰りました。ほんの1時間ほどの間に二人が立て続けに同じ事を言って来店しましたが、私には質問の意図が全く理解できておらず、何が起こったのか気になって暫く考えました。

実際にあった事を一つずつ思い起こせば、焙煎した日付はどれが新しいかと聞かれ、答えても買うことには繋がらなかったので、新しいイコール買いたいではない訳です。では何の為に焙煎後最も新しい豆を知りたかったのでしょう。

私が直感的に思ったのが、ブルーボトルコーヒーが掲げている、焙煎後
48
時間以内に豆を使い切るという表現です。たまたま二人が同じ日に来店しただけでなく、年代が共に若く、質問内容が極めて近い事がその理由です。彼らが考えている事の情報源がインターネットであり、最近になって新たな情報が広く拡散したとしか思えません。そう言えばブルーボトル関連の情報を、私は最近見た事がありませんでした。数年前日本に進出したばかりの頃、何度かネットで情報を検索しましたが、その時は48時間以内に豆を使い切る方針について、それ以上詳しい内容を知ることができませんでした。

久々にネットでブルーボトル関連の情報を検索して見たところ、驚くほど情報量が増えていました。そして日本進出直後から掲げていた、48時間以内に豆を使い切るというスローガンの趣旨が、いつの間にか詳細に補足・解説されているのも知りました。何でも48時間以内に使い切るのは店で販売する豆の場合で、店頭で淹れる珈琲に使う豆はその対象でないのです。何年か前に私はネットでブルーボトルの豆を取り寄せようと試みました。しかし調べて見たところ、その頃は店で豆を売っておらず、米国から送られて来るような表現になっていました。それだと48時間以内の消費という表現は、どの程度守られるか確証が無いと感じて止めました。その時の経験を踏まえて現在の説明を読むと、何だか巧妙に言い方を変えたように思え、不透明な印象をぬぐえないのですが、それでも日本の珈琲業界に初めて焙煎豆の鮮度問題を提起した意義は評価できます。

ただネットで関連情報を仔細に検索するほど疑問に思うのは、どれもが焙煎そのものの中身に殆ど触れていない点です。焙煎後日が浅い方が鮮度は良いとか、焙煎後数日熟成させた方が更に香りが良く味も馴染んで来るとか、これらの説明は全て焙煎後に起きる現象です。中には鮮度が良いイコール美味しいとは限らないという説明もありましたが、この原因となるのは焙煎作業中に起こる豆の変化や仕上がり具合の差だと思います。ネット情報では焙煎終了と同時に、全ての豆が同じスタートライン上にあるような表現になっています。しかし私は焙煎を長年自分で実施して来た人間として、それは乱暴かつ大雑把な物言いだと思います。実際当店のある常連さんは、地元で営業している評判の自家焙煎店を探してこまめに足を運ぶ人ですが、その都度評判に聞いたほど珈琲が美味しくない場合が多く、逆に酷い味だったという話もよく聞きます。


私は焙煎豆の鮮度問題以前に、当然の順番として生豆の鮮度・品質の差があり、焙煎作業自体も機械性能や設定条件が違うため、必ず店ごとに仕上がりの差が生じると考えます。日本の珈琲業界ではかなり以前から、抽出した珈琲の美味しさの
8
9割が、生豆の品質と焙煎の仕上がりで決まると言われて来ました。
つまり焙煎豆が熟成に向かうスタートラインに並んだ時点で、すでにその実力に差があるという現実を示します。因みに残り
12割は抽出方法の影響と言われます。話が混乱するそもそもの原因は美味しさの基準値が無いことでしょう。仮にそれぞれの焙煎豆の美味しさを比べる共通基準があれば、例えばオリンピック競技者のランク付けのようなレベル差があって当然です。焙煎後48時間以降の熟成によって起きる微妙な味の変化以前に、まず焙煎の仕上がり具合で予選通過以上のレベルが求められるべきだと私は確信します。

ブルーボトルコーヒーが提起した48時間以降の熟成による豆の変化は、より美味しい珈琲を楽しむ為には情報として必要だと私は思います。しかし現実は48時間の数字が独り歩きする状態も起きていると思います。焙煎後何日で最も美味しい豆になるかの情報を頼りに、あの若者が当店でその豆を買おうとしたのなら、全ての豆の焙煎日を知った上で適合する日数の豆を買いたいと思うでしょう。しかし現実に営業する店がその条件を安定的に満たすとは到底思えません。大都会にあって行列のできるような店でもなく、田舎町の片隅にある店が一定のペースで豆を消化できるはずがありません。では最適な経過日数の豆が見つかるまで彼らは多くの店を回るのでしょうか。多分そんな事はできないでしょう。結局日数が僅かに合わなくても仕方なく買わざるを得ないでしょう。しかしそんな時は高い鮮度の豆でさえ、がっかりした気持ちて買うのでしょうか。

珈琲の美味しさについて十分な情報を得てない人達が、目先の情報に惑わされるとこんなに混乱した状態に陥るのは悲しい事です。
 焙煎の仕上がり、その後の鮮度維持、そして熟成による好ましい変化、どれもが重要な要素だと私は思います。
しかし忘れてはならないのは、それらは自分が味わうことで最終的に確認できる要素だという点です。
ハセップ(
HACCP
)による宇宙食の安全追求は、最終的に人間の生命を安全に保つ結果を見て、一連の作業が完璧に行われたのが分かるように、珈琲を味わう人の感覚によって美味しさは最終的に評価できます。もしも本来の美味しさでなかった時は、関連するプロセスの何処かに問題があると考え、先入観を持たず一つずつ確認すべきです。生豆から焙煎、鮮度管理、抽出方法までの何処かに問題があるのです。その一つずつを確実にクリアすれば間違いなく美味しい珈琲に出会えると思います。

当店のやり方として、私は一つずつのプロセスに現実的対策を講じています。まずは生豆の鮮度管理の為に玄米貯蔵庫を活用しています。当店では全ての生豆をこの中に貯蔵しており、夏場の高温・高湿度の時期は特に安心です。次に焙煎機の定期的メンテナンスを含め、焙煎時の条件設定を厳しく追求します。焙煎条件の再現性を高める為に、毎回手書きのメモノートとパソコンの温度グラフをデータとして残します。1分刻みの温度グラフを見ながら、付きっ切りで再現性を高める努力をしますが、最後は数字でなく焙煎後の豆を味わうのが重要です。生豆を投入する量と豆の温度、季節による気温の上下、夏場の冷房が焙煎機に与える影響、メンテナンス後の稼働時間によっても機械性能は変化し、複雑な条件が影響し合うので、私は一期一会の感覚で日々焙煎をします。焙煎後の鮮度維持の目的で、当店では全ての焙煎豆を冷凍庫か冷蔵庫に保管します。専門家の意見として、保管温度が10℃下がれば賞味期限が2倍延びると言われます。見た目の鮮度確認は、抽出時に粉が膨らむかどうかを見ます。

当店では川上の生豆貯蔵から、川下にあたる焙煎豆の鮮度管理まで、安定したレベルが保てるよう一貫して品質管理を心掛けています。焙煎後の豆は24時間以上常温保管し、炭酸ガスの急激な放出が収まったら、全て冷凍か冷蔵に回します。販売する焙煎豆の種類が50種類程度あるので、それぞれのローテーションや過不足に気を配るのも基本的な日々の仕事です。開業後10年に亘り初級珈琲教室を毎月開催し、珈琲を美味しく飲むための重要な条件を、それぞれ目に見える形で開示して来ました。また参加者自身が当店のドリッパーで珈琲を淹れ、抽出方法の違いが味に与える影響も実感できます。これまでに受講された方々を延べ人数にすると、驚くような数字になります。そのお蔭でしょうか、美味しい珈琲を楽しめる店として、今でも初めてのお客様が毎日口コミで来店されます。ほぼ2週間毎の土日に珈琲豆の特売があるので、それを目当てに来店される常連さん達の顔を思い浮かべ、その方達が求める予定のブレンド豆を作る楽しみが私にもあります。




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by hmusik5y | 2018-02-23 23:27 | その他 | Comments(0)

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